舞台裏は入学式を控えた先生方が頻繁に行き来していた。


俺は学年団の1番偉いだろう先生から、お言葉の台本の紙を頂き控えの椅子に座った。


少しして、1人の女子が入ってきた。さっき、お爺ちゃん先生が言っていた女子だろうか。ああ、そうだな。あいつも台本を貰っている。


そして、段々その子が俺の隣の控えの椅子に座るために近づいてきた。


さっきまで、遠目で見てたからあんま分かんなかったけど、こいつ結構可愛いな。


目がパッチリした垂れ目で鼻も高いし、色素の薄い唇で顔も整ってる上に、少しトーンが高めのミルクティーベージュのボブ。


こんな言葉、俺が言ったら変な感じだけど、顔の可愛さと髪のゆるふわ感があいまって、庇護欲に駆られるような子だ。


今まで出会った中でダントツに可愛い。


「あ、あのセリフの振り分け、ど、どうする?や、やりたい奴があったら、そ、それでいいよ。」


その子の言葉ではっと目が覚めた。俺が女子に見惚れてるだと⁉︎ありえない、ありえない。そんな事は有り得ないんだ。
と、とりあえず気を取り直して返さないと。


「いえいえ、俺は別にありませんよ。貴女の方はやりたい奴、ありますか?」


ここは、相手方の意見を聞くべきだろう。


「あ、いえ、別に無いです。じゃあ、どうします?」


女の子は、人見知りなのかおどおどしてそう答えた。やばい、さっきから庇護欲が掻き立てられ続けてる。


「そうですか、では俺はBの部分をやりますね。」


「わ、わかりました。じゃあ、私はAのところね。あ、こ、これってお言葉の時に台本見ちゃ駄目なのかな…」


「あー、確かにそうですね。聞いてみます。ここで待っていてください。」


確かに、先生は1番大事なところを伝え忘れてるな。俺が聞いてこよう。


「あ、ありがとう!いってらっしゃい。」


あー、ちょっとやばいかもな、これ。特に遠くに行くわけでもないのに、『いってらっしゃい』だってさ。


しかも、わかってた事だけど、笑顔も死ぬほど可愛いじゃん。


これ俺終わったな、心が。


もう会って数分しか経ってないのに骨抜きにされてるぞ。


今はそんなこと考えない、考えない。とりあえず、先生に聞こう。お、発見。


「先生、新入生のお言葉なんですけど、これって本番では台本見てはいけないのでしょうか。」


「ああ、1番大事な事を伝えていなかったね。そうだね、できる限り見ない事が望ましいかな。別に時間的に厳しい事は承知しているから、見ても誰も咎めはしないよ。もう1人の子にも伝えておいてもらえると助かる。」


「なるほど、わかりました。もう1人にも伝えておきますね。ありがとうございます。」


「うむ。健闘を祈るぞ。僕たちもそろそろ準備をしなくてはならないからね、戻るよ。」


そう言って、先生は舞台裏のさらに奥の方へと進んでいった。


よし、戻るか。そして俺はあの女の子がいるところへ戻った。