「いお、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
涙が止まるまで、屋上にいた。
先生は言った通り、屋上には来なかった。
「もうすぐ、冬休みだよね。
いおは冬休みどうするの?」
「…久しぶりに、家に帰ろうかな」
冬休み。
私が家に帰ろうと思ったのは、さっきだった。
少し離れたかった。
誰からとかじゃなくて、
ここにいる自分から。
離れて、何も考えたくなかった。
何を考えても、苦しかったから。
大好きな人のことを考えると、
幸せなはずなのに、今の私は違った。
大切な人に、大好きな人に何も出来ない自分と、気持ちを伝えられない自分に腹が立った。
だから、そんな自分から逃げたかった。
こんなの間違っているかもしれない。
それでも、
今は何も考えない時間が欲しかった。
「じゃあ、冬休みは遊べないね」
「うん。ごめんね」
「全然大丈夫だよ。
また、いつでも遊べるからね」
もし、私から本当の気持ちを伝えれば、
日向も話してくれるだろうか。
日向の本当の気持ちを。
でも、私が自分の気持ちを口にしてしまえば、日向も翔太も伊月くんも傷つけてしまうことになる。
それだけはしたくなかった。
…そうじゃない。
ただ、できなかっただけ。
傷つけてまで、
自分の気持ちを吐き出したいとは
思わなかったから。
その後の授業も、
全然内容が入ってこず、1日が終わった。
「いお、またね」
「うん」
いつものように(またね)と言う日向に、
返事をする。
この(またね)は、また明日ね。と、またいつか。この二つの意味がある。
夢の中の先生は、またいつか。の(またね)と言った。
たとえ、夢でも先生の口からそんな言葉、
聞きたくなかった。
だから、教室に先生が来た時、
本当は嬉しかった。
まだ、先生は私の近くにいる。
そう思えただけで安心して、
余計涙が止められなかった。
でも、今は一番会いたくないとも思った。
先生が嫌いとか、
泣いてるのを見られるのが嫌とかじゃなくて、
今の私を見られるのが嫌だったから。
だから、屋上に行っても、
先生との思い出しかないから、
どうしても、今だけは行きたくなくなった。
色々考えても分からないのに、
考えてしまうから。
こうやって、私が大切な人から逃げていることに、全く気づけなかった。
向き合わないといけないと
頭では分かっていたはずなのに。