「いお、遅かったね」
「ごめんね〜」
「もうすぐ、花火始まるんだって」
この学校の文化祭は、朝から夜までする。
そして、最後は花火が上がる。
友達と見たり、彼氏や彼女と見たり、
そして、好きな人と見る人もたくさんいた。
みんなが花火を見るために、外に出てくる中、先生の姿だけは、見つけることができなかった。
「…行ってきなよ」
「え…?」
「先生のところ」
私が先生を探していることが、
分かっていたかのように、
日向はそう言ってくれた。
「早くしないと、花火始まるよ?」
迷っていた私に、
背中を押してくれたような言葉。
「ありがとう、日向。
…行ってくる」
「うん、頑張ってね」
笑顔で頷き、人混みを掻き分け走った。
生徒や先生が外に出てくる中、
私は校舎に入った。
でも、どこにも先生はいなかった。
「…どこにいるの…」
私が呟いた声は、
周りの楽しそうな話し声に掻き消される。
その時、ふと、
最近行っていなかった屋上を思い出す。
花火が上げられているところに、生徒が行かないようにと、どこで上げられているのかは、誰も知らなかった。
だから、花火は屋上から上げられていると、 噂が流れていた。
でも、どうしても先生と一緒に、
花火を見たい。
そう思えば、私は屋上に向かって走っていた。
「…いお?」
階段を登っていた時、
後ろから声をかけられた。
「…先生?」
「今から屋上に行くのは、ダメだよ」
「…すみません」
「…どうして、そんなに急いで屋上に行こうとしたの?」
先生を探してたんだよ。
一緒に花火、見たかったから。
先生と二人で見たかったから。
でも、そんなことを言えるはずもなく、
また誤魔化すんだ。
「…花火、
屋上で見たら綺麗かなって…思って」
私がそう言った瞬間、ドンッという音と、みんなの歓声が、同時に聞こえてきた。
「いお、こっち」
先生に手招きされて、その後ろをついていく。
「…綺麗…」
「でしょ。…特等席」
みんなは、中庭やグラウンドから見ていたけど、私と先生は駐車場に来ていた。
人が全然いなくて、
とても見やすいところだった。
「…さっきの返事、どうしたの?」
「返事…?
あ、伊月君の」
私が伊月君の名前を出すと、先生は頷いた。
でも、その表情は、
どこか悲しそうな気がした。
どうしてかはわからない…
…分からないけど、
私は先生が、
体育館から出て行った後のことを全て話した。
