「もう有志も終わって、片付けたんだね」
伊月君はそう言って、
バスケットボールを突き始めた。
「うん。さっきとは違って静かだね」
私がそういうと、
突然、伊月君がボールを突くのやめて、
私に向かって話し出した。
「いおちゃんはさ、
前に好きな人いないって言ったでしょ?」
夏休みに入る前に、
一緒に帰った日のことだと思う。
確かに私は、伊月君に嘘をついた。
「…本当はいるんでしょ?」
「!?…どうして?」
「見てたら分かるよ」
日向も翔太も、同じことを言っていた。
だから、伊月君も私が、先生を好きなことをもう分かっているかもしれない。
「俺ね、バスケ部入ったんだ」
そう言って、
伊月君はまたボールをつき始めた。
「…1つ
お願いしていい?」
「…お願い?」
「これが入ったら、いおちゃんの時間、
一日だけでいいから俺にちょうだい」
そのお願いに、すぐには頷けなかった。
私は先生が好きで、その想いは、たとえ先生に振られたとしても、消えない。
消せないから。
伊月君を思うなら、断るべきなのに、
首を横に振ることもできなかった。
「それは、強引すぎじゃない?」
私が返答に困っていると、
急に後ろから声がかけられた。
「シュートが決まったらデート。
なら、七瀬の気持ちはどうなるの?」
「…先生」
先生の問いに、伊月君は言葉を詰まらせた。
「…どうして邪魔するんですか」
少しの沈黙の後、
伊月君が放った言葉に私は少し期待した。
先生が伊月君を邪魔する理由を。
でも、そんな期待はあっさり裏切られた。
「別に、邪魔したかったわけじゃないよ。
ただ、声が聞こえて、聞いてたら気になっただけ。邪魔だったんなら、ごめんね」
そう言って、先生は体育館を後にした。
「…いいよ」
「え?」
「シュート入ったら、
私の時間、少し伊月君にあげる」
「本当!?」
「うん。でも…」
期待はしないで。
そう言おうとしてやめた。
もしシュートが決まった時、
その時に全部言おうと思ったから。
「…でも?」
「なんでもない。
…じゃあ、頑張って」
私がそう言うと、
伊月君の目つきが一気に変わった。
あんなにも真剣な目は、はじめて見る。
伊月君のバスケの試合は、見たことがないけど、きっとこんな感じなんだろうなと思った。
何回かボールをついてから、
伊月君は目を瞑り、大きく息をはいた。
そして、目を開けた瞬間、
ゴールに向かってボールを投げた。
その瞬間私は目を瞑った。
入ってほしいとか、
ほしくないとかじゃない。
私の気持ちは変わらないから。
入らなくても、
入っても伝えたかった。
私の気持ちを
伝えないといけないから。
