教室に戻ると、もちろん先生はいなかった。
あの時言った(待ってるから)は、
待つを意味していたんじゃない。
やっぱり(行っておいで)だった。
先生なりの優しさだった。
「いお、店当番交代だって」
「嘘、私全然やってない。ごめんね」
「全然大丈夫だよ〜それより、早く行こ?」
「待って、翔太と伊月君は?」
「…めっちゃ忘れてた」
そう言って、笑い合っていたところに、
翔太と伊月君がきた。
「じゃあ、行こっか」
「ね、いお。元彼さんは?」
「さっき帰ったよ。
てか、その呼び方…
やめてよ…ね」
日向の質問に、
何も考えず返した時、ふと思った。
元彼のこと、翔太と伊月君は知っていたっけ?
確かあの時は、
日向しかいなかったから、二人は知らない。
そう思った時には、もう遅かった。
「え、待って。
さっきの人っていおちゃんの元彼!?」
すぐに聞いてきたのは、伊月君だった。
翔太は特に何も聞いてこなかったが、
伊月君がそう聞いた瞬間、
翔太も同じ反応をしていた。
「…うん」
「…元彼の一人や二人ぐらいいても、
いいんじゃない」
一瞬、重たくなりかけていた空気を破ったのは、翔太だった。
「今は…好きじゃないんでしょ?」
「うん、違う。違うよ?」
「ならいいじゃん」
そう言って、翔太は歩き出した。
それにつれて私たちも歩き出す。
「なんか、ごめん」
「大丈夫だよ」
日向は、私にだけ聞こえるように謝った。
でも、別に隠すことでもないから。
「どこから行く?」
「私、パフェ食べたい」
「日向は、甘いもの好きだよね」
「めっちゃ好き」
そんなことを言いながら、
みんなで色々なところに行った。
一緒にパフェ食べたり、体育館でやっている有志を見たり、写真を撮ったり。
時々、先生の姿を見て嫉妬もした。
たくさんの女子生徒に囲まれて
笑っている先生は、見たくなかった。
「いおちゃん、ジュース買いに行かない?」
「うん、いいよ。
日向、ちょっとジュース買ってくるね」
「待って待って!
私、榊原君と二人とか無理だよ?」
「大丈夫だって。頑張ってね」
「いお、どこ行くの?」
日向の背中を押した時、
ちょうど翔太が声を掛けてきた。
「ちょっとジュース買ってくるね」
それだけ言って、私は伊月君と歩き出した。
日向は翔太のことが好きだから、
この文化祭で、
二人での思い出を作って欲しかった。
