あれから何もなく、
二ヶ月が過ぎようとしていた。
先生と私は、
周りの生徒と変わらず挨拶を交わすだけ。
英語の授業も先生ではないので、
会うこともなく。
そして、屋上にも行っていなかったから、
この二ヶ月、先生と二人で話すことはなかった。
「いお、そう言えばさ、
榊原くんといつ仲良くなったの?」
日向からそう聞かれて、
なんて答えればいいか分からなかった。
確か、あの日は私が、先生のことを考えていた時、急に話しかけられた。
「俺が放課後に話しかけたんだよ」
なんて答えようか考えている時、
横から翔太が会話に入ってきた。
「え!榊原君からなの?意外…」
「…どうして?」
どうして意外なんだろう?
初めて話しかけられた時、
とても話しやすい人だと思っていたから。
「だって、女子から話しかけられても、無視してるんだよ?」
「そうなの?」
「俺、興味ない奴と話す気ねぇから」
そう言いながら、
翔太は教室から出て行った。
「これ、いおのこと好きってこと?」
「!?な、なわけないじゃん」
「絶対そうでしょ!
だって興味があるから、話しかけられたんだよ?しかも、二人だけ名字じゃなくて、名前で呼び合ってるんでしょ?」
「まぁ、そうだけど…」
それ関係ある?って言いたいとこだけど、やめておいた。
でも、確かに先生が、私が初めて翔太と話した時、そんなに仲良くもないのに、下の名前で呼ぶんだって言っていたのを思い出した。
もう二ヶ月も先生と話していない。
でも、今更二人で何を話せばいいかなんて、分からなかった。
でも、話さないといけない。
このままでは嫌だ、
ずっとそう思っていた。
そんな事を考えていたら、
やたらと廊下がうるさかった。
「なんだろう?」
そう言いながら、日向が廊下に行くので、
その後を私も着いて行った。
「柴咲先生、人気だよね」
そう言う日向の視線の先には、先生がいた。
女子生徒に囲まれながら、
楽しそうに話していた。
他の生徒と仲良く話す先生は、
好きじゃない。
「いお、最近先生と話さないよね?好きなんでしょ?話に行きなよ」
「いや、私はいいよ」
そう言って、私は教室に入った。
なのになぜか、
先生も私たちのクラスに入ってきた。
「次って英語だっけ?」
「違う違う。次は体育祭の種目決めだよ」
「…じゃあ、なんで先生がいるの?」
「今日は緑川先生が出張だから、代わりに柴咲先生が来るって言ってたよ?」
全く、緑川先生の話を聞いていなかった。
その後、授業が始まり、何回か目があったけど、私から逸らすばかりだった。
「じゃあ、種目決めを始めてください」
先生がそう言うと、みんなが席から立ち上がり友達と話し出した。
「いおは何でるの?」
「私は…なんでもいいかな」
リレー以外なら。
そう言おうとした時、
「じゃあさ、一緒に女子リレーでない?」
「…リレー
…うん、いいよ」
リレーは中学生の時の苦い思い出があった。
私はリレーでアンカーだったけど、一番でバトンを渡されたから、一位はいけるって思ってた矢先、こけてしまって、最下位になってしまったから。
だからか、トラウマになっていた。
でも、再挑戦するチャンスだと、ポジティブに考えた。
だから結局、
私は女子リレーに出ることになった。
「よろしくね」
日向が私含め3人に言った。
順番は一番は日向、二番は大橋紬ちゃん、三番は橘香織ちゃん、そして私が、アンカーになった。
私はただこけないように、
それだけを考えていた。
「いお?」
ふと名前を呼ばれ、
振り返ると翔太が立っていた。
「何?」
「なんの種目でんの?」
「女子リレー。翔太は?」
「俺は男子リレーのアンカー」
「私と一緒だね」
そんなふうに笑い合っていたら、なぜかリレーのアンカーという、プレッシャーに押し潰されそうだったのが、少し楽になっていた。
「翔太、ありがとう」
「…何が?」
「…なんでもない」
お礼だけ伝えて席に戻った。
ふと先生の方を見ると
バッチリと目が合ってしまった。
いつもだったら、
すぐに目を逸らしてたけど、
今は逸らせなかった。
だって先生、よく屋上で見ていた、辛そうな顔をしていたから。
でも先生はすぐに目を逸らした。
もう先生の辛そうな表情を見るのは
嫌だった。
でも、私は生徒だから言えないと言われてから、先生にどうやって接したらいいのか、分からなくなっていた。