この時、龍斗は思った。

まどかが一人で生んで育てるので有れば、誰の子供でも構わない、まどかを側に置いて守ろうと決心した。

まどかは親父の代からの秘書で、はじめて出会ったのは、十年前だ。

まどかが二十九歳、俺が二十歳の時。

ちょうど、親父の会社に用があり、ビルの前を通りかかった時、泥棒って女性の声がして、

俺の横をバッグを抱えた男が走り過ぎた。

その男の後方に倒れて「その男を捕まえて」と叫ぶ女性がいた。

俺はその男の足を引っ掛けて倒した。

その男に跨りバッグを奪い返した。

親父のビルの警備員がすぐに駆けつけので、俺はその男を引き渡した。

女性はハアハア息を切らせて俺に近づいてきた。

「ありがとうございました」

俺はバッグをその女性に手渡した。

「血が出ています」

そう言って女性はハンカチを出して俺の手に巻きつけた。

「大丈夫ですか」

「あっ、大丈夫」