ミルは茫然と空から地表を見下ろす。
敵が、多すぎる。
ミルを倒さなければ、魔法がやまないと気が付いたのか、地上の魔獣でも遠距離攻撃を得意とする者は、空に向けて攻撃を始めた。
「息つく暇もないとは、こういうことね」
思ったよりも、早く限界が訪れてしまいそうな予感。
その時、ミルの後頭部を色鮮やかな鳥の魔獣の突撃が掠め、クラリと脳震盪のように意識が一瞬失われる。
とたんに落下していくのを感じながらも、魔法の発動が出来ない。
――――終わった。
あまりにもあっけない最後。今までの努力は、何の意味もなさなかった。
周りのご令嬢たちが、ドレスに、化粧にと華やかに楽しそうにしている中、魔術の深淵だけを見つめてきたのに。
今まで、武装代わりにまとっていたドレスも、化粧もそぎ落としたのに。届かなかった。
「ミル!」
ドサリ。軽い感触で、地面にぶつかることなく抱き留められた。
クラクラする意識を無理に浮上させ、目を開ければ、目の前には、ほっとした表情でほほ笑む剣聖。
攻撃の手を緩める余裕なんてないはずだ。
幾多の傷が、それを証明している。
そして、魔獣の一斉攻撃が迫っていた。
「――――馬鹿ね。もう少しは、長生きできたのに」
「ミルと、一緒がいい」
「ほんとバカ」
確かにそこにある体温。こんな終わり方も悪くないかもしれない。
魔術ばかり求めて、近くにいた幸せに目を向けようとしなかった報い。
それでも……。
――――ギャンッ!
その時、魔獣たちがミルとロイドから距離をとる。
「――――お前たち」
そこには、銀狼の群れがいた。
魔獣であるはずの銀狼の群れは、ミルとロイドの周囲を守るように取り囲んでいる。
「――――え? 銀狼って、確か」
「家族」
「そ……。そうよね?」
二人の終わりには、ほんの少し猶予があるようだ。
だが、ミルが対空戦から離脱したことで、王都には空からの攻撃が降り注ぐ。
冒険者たちに、誘導された住民たちは、地下へと逃れていた。
だが、終わりが近いことを誰もが予想していたのだった。
そんな中、王宮から逃れる一団。それは、集中砲火を受け始めた王宮と王都から、逃れようとする王侯貴族と一部の高位貴族だった。
一部の騎士達は、王族から離反し、すでに王都周辺の戦いに身を投じている。
王族を見限ったのだろう彼らは、守護騎士レナルドと聖女が王都に戻ってきたという情報を得て、正門へと向かっていた。


