ミルの体には、清廉な印象にそぐわないほど、たくさんの装飾品が身につけられている。
「だって、どう考えても、魔獣は増え続け、この事態は予測できたのに」
国王陛下や王侯貴族には進言したが、取り合ってもらえなかった。
だから、ミルはずっと、美容だけに興味があるようにみせて、魔力を魔石に貯めこみ続けていたのだ。
「まあ、おしゃれは好きだけど」
そうつぶやいた直後、ミルの足元に、紫と金色の蔓薔薇が現れて、魔法陣を形作っていく。
まるで、魔力を与える魔術師を逃すまいとでもいうように、蔓薔薇がミルの足元に絡みつく。
その瞬間、周囲は真っ白な閃光に包まれる。
そして、轟くのは、世界が揺れてしまうのではないかと錯覚するような雷鳴。
その瞬間、前方に見えていた翼竜の大軍は、翼を動かすことができなくなり、地面へと墜落していった。
「――――それにしても、虫は苦手なのに」
大きな蛾や羽音で耳が痛くなりそうな巨大な蜂。
ミルは、再び魔法陣を構築する。
次の瞬間、胸元に輝いていた、金色の魔石が音を立てて弾けた。
魔石には限りがある。
ここまで準備し続けてきたけれど、仲間がここまで分断されるのも、想定外。
ちらりと正門側に目を向ければ、赤い影がすでに戦いをはじめ、周囲に魔獣が折り重なり始めていた。
北門側は見えないが、重低音が聞こえてくるところを見ると、ビアエルが何か道具を使っているのだろう。ミルは再び正面に目を向け、今度は竜の形をした炎を、練り上げるのだった。


