「陛下の治める、この王国のために、力を尽くします」

 辛うじて、嘘にならないギリギリな線を攻めるのは、得意なはずなのに。自分が思っている以上に、ミルは怒っているらしい。

「でも、ここが聖女様とレナルドが帰る場所だから」

 ミルは、魔術師の正装に着替える。
 オシャレではないと、言い訳しては、着ることがなかったローブ。
 ほとんど化粧をしていない姿。
 この後戦えば、決して乱れることのなかった、髪型もボロボロになるに違いない。

「綺麗だ」
「……さっきから、なんなのよ。ロイド? 化粧もしてないし、オシャレもしていない。今までで、一番美しいはずない姿だわ」
「……好きだ」
「は?」
「ミルは、俺のこと好き?」

 ロイドが、こんなにも喋るのは、本当に珍しい。
 魔獣である銀狼に育てられたという、生育環境のせいで、彼は喋るのが苦手だ。

 でも、それ以上に、その内容が問題だった。
 魔術師ミルは、大魔法を使うための制約のせいで、嘘がつけない。

 だから、ミルは、イエスがノーでしか答えられない質問は、苦手だ。

「………………好きだわ」

 たっぷりの空白の後、ミルは答える。
 仕方がない。それしか答えようがないのだから。