「…………好きです。世界で一番」

 初めてのキスは、塩辛かったし、人命救助に近かった。やっと出来た、初めての告白にしても、あまりに趣がない。この世界には、黒と金色をした有名な湖も、シュワシュワ音を立てながら散るソーダみたいな花もあるというのに。

 いつか、レナルド様と、もう一度見たい。

 レナルド様から、返答はない。

 私は、回復魔法を唱えながら、レナルド様の首に腕を絡める。レナルド様の髪の毛の色と同じ、薄水色のドレスだけは、私の憧れる告白場面にピッタリだ。

 背伸びした私と、少し屈んだ背の高いレナルド様。申し訳ないけれど、過去2回のキスは、カウントしない。
 だから、これが。この、強く抱きしめられて、泣きたくなるほど甘く柔らかいのが、私の初めてのキス。

 なぜか、今回も少しだけ塩辛い。

 聖女の初めては、特別な意味を持つ。
 初めての告白のせいか、私の足元に浮かぶ、桃色と黄色に彩られた、可愛らしい魔法陣。

 魔法陣の真ん中に光るのは、聖女を表す暁の一番星。魔法陣に描かれた、近くて遠い、月と太陽みたいな私たち。

「名前を呼んでくれなくてもいい。そばにいて」

 暁の光の中で、ほんの一瞬だけ、世界にたった二人きりになったような気がした。