「……直前まで、説明もなしに」
「また、逃げられてしまうかと思ったから。卑怯だと思いますよね」

 レナルド様が、卑怯だったことなんて、一度もない。どれだけ、守ってもらったか。
 魔獣相手ですら、その戦いは正々堂々として!美しい。
 レナルド様は、いつだって、自分のことは二の次だった。仲間のために、私のために。
 私が首を振ると、あからさまに、レナルド様はホッとした顔をした。

「……でも、現実をちゃんと見てください。私は、レナルド様に相応しくありません」
「……どこが、相応しくないと」
「えっ、身分とか……」
「聖女は本当は、王族とも結婚できるんです。過去に例だって」

 そんなこと、初めて聞きました。
 でも、聖女でなくなった私は、ただの女の子で。

「……だって私は何もできない」
「守らせて」
「……それに、何も待っていない」
「俺の持つ全ては、リサのものだから」

 本当に困る。レナルド様には、何を言ってみても、言いくるめられてしまいそうだ。

「…………レナルド様が、嫌になったら……。私のことが迷惑になったら、婚約は解消してくれますか」
「そんなこと、永遠にないけれど。それでリサが納得してくれるなら、誓いますよ」

 サラリと、私の髪を梳かすように撫でたレナルド様の手。そして、真剣な瞳。
 重い。言葉が重い。
 でも、逃げてばかりの私は、きちんと自分の気持ちを伝えてすらいない。

「…………レナルド様、私」

 ――――あなたが好きです。その一言を伝えようとした瞬間、地響きと共に大きな揺れが起こった。