「ところであの、今日はどうして正装なのですか?」
「行くところがあります」
「お屋敷の外?」
「屋敷から出なければ、どこにもいけませんよ?」

 それはそうなのかもしれない。
 でも、王都に戻ってから、たぶんレナルド様の所有物であろうこのお屋敷から出るのは、初めてだ。
 部屋の外は、自由に出ることが出来るけれど。

「……ようやく、安全が確保できたと思うから」

 レナルド様は、一緒に眠った次の日の朝、私が起きた時にはもういなかった。
 その後も、仲間たちが交互に護衛しに来てくれているけれど、レナルド様は、早朝から深夜まで、忙しそうに過ごしている。

「安全?」
「そう、俺がいなくても、リサを誰も、傷つけないように。それが、ようやく叶いそうだから」

 安全、という言葉より、俺がいなくても、という言葉が気になってしまう。

「レナルド様が、いないのは、嫌です」

 ピクリと、レナルド様の肩が動いた。
 感情が分かりにくいレナルド様にしては、珍しい。

「……光栄です」

 なぜか、あまり嬉しそうに見えない。
 誰が見ても、嬉しそうに笑っているのに、なぜか私には泣いているようにさえ見えてしまう。

「さ、行きましょう。ミル殿も待っているから」
「え、ミルさんが?」

 エントランスホールに降りると、本当にミルさんがいた。
 なぜか今日も、真紅のドレスに身を包んでいる。高く結われた紫色の髪、金の瞳、どこか悪役令嬢っぽい見た目だ。

 ――――社交界に現れたら、誰よりも注目を浴びそう。

 そんなことをぼんやり思っていると、「聖女様、お久しぶりです」と、ミルさんが微笑んだ。

「残念だけど、今日だけはミル様と呼んでくれるかしら。残念だけど」

 なぜか、赤いリボンに宝石までつけておめかししているシストを抱き上げながら、二度言うミルさん。
 その言葉から、これからお会いする人は、位の高い方なのだと、私は神妙に頷いた。