ただそれだけだった。
ぎゅうっ、と掴んだままの手に汗がにじむ。
レナルド様に、気づかれませんように。
そんな私の必死さに気が付いたのか、レナルド様は「は……」と短く笑った。
顔をあげると、レナルド様は、本当に困ったように、それなのに、ほほ笑んでいた。
その表情を見た瞬間、私は強くレナルド様の手を引く。
「ここに横になってください」
「ソファーで大丈夫です。そばにいられれば、それで」
「……お願いしても、ダメですか」
「ずるいです。リサは」
レナルド様は、「リサの願いは、全部叶えるって決めている俺に、そんなこと言わないで貰えませんか?」と泣きそうな顔で言う。
私のことを、好きだと言いながら、その行動はどうしていつも距離を取ろうとするのだろうか。
それでも、私に押し負けてしまったレナルド様は、ベッドに横になった。
「……リサの香りがする」
「え?」
レナルド様の、淡い水色の睫毛が、ゆっくりとラベンダー色の瞳を隠していく。
ほどなく寝息が聞こえてくる。私も、レナルド様との間にシストを挟んでも、まだまだ余裕のある大きなベッドにもぐりこむ。修学旅行みたいで、みんなで寝るのはうれしい。
『本当に、忍耐の二文字。レナルドが気の毒だから、この睡眠魔法は特別大サービスだ』
シストのため息交じりの声が聞こえる。
眠っているのに気の毒とは……。そんなに無理やりだっただろうか?
そんなことを思った私にも、温かくて優しい魔法が降り注いだ感覚がして、急速な眠気とともに、今度は優しい光の中で、レナルド様と仲間が一緒に笑っている夢の中に、私は落ちていくのだった。


