大群の魔獣がスタンピードを起こして、崖の下を埋め尽くそうとしている。
高い崖に守られた村も、もうすぐ魔獣に呑み込まれてしまうだろう。
その大群の中に、一人の騎士が飛び込んでいく。遠くからでもわかる、その髪は冬の湖みたいな美しい色をしている。
砂埃の中、あまりにも無謀なその騎士の行動を止めるものは、その場に誰もいない。
「やだ! 行かないで、レナルド様!」
「――――リサ?」
泣きながら目を覚ました私の声を聞きつけたのか、性急に扉を叩くレナルド様の声が聞こえる。
私は、ベッドから降りると、扉を開いてレナルド様に縋り付いた。
さすがに、同じ部屋は無理です……。
そう告げた日から、レナルド様は、夜の間は、私の部屋にちゃんとノックして入ってくる。
自分で言っておいて申し訳ないけれど、今はとにかく、そばにいて欲しかった。
「――――リサ? 怖い夢でも見ましたか?」
私は、コクコクと激しくうなずいた。怖いなんてものじゃない。
でも、その内容はもう朧気で、思い出すことができなかった。
いつもそうだ。最近の夢は、不安だけを私に残して消えていく。
「レナルド様……。起こしてしまってごめんなさい」
「寝てなかったから、平気です」
「……え? 真夜中ですよ」
見上げたその顔は、珍しいことに「しまった」というような表情を浮かべていた。


