私に微笑みかける姿は、嘘をついているようには見えない。
だけど、レナルド様が、私の気持ちを尋ねてくることもない。
盗賊のビアエルさんは、時々遊びに来ては、レナルド様のお屋敷のエールとワインの樽を空っぽにしていく。
剣聖ロイド様は、レナルド様と中庭で剣を交える。言葉を交わさない二人。でも、戦いの後、レナルド様が倒れ込んだロイド様に手を差し伸べるところまで、いつもの光景だ。
「まだ、伝えていないの?」
ミルさんは、今日はなぜか、貴族令嬢のようなドレスを着ている。レナルド様に頼まれごとをして、この格好をしないと会えないお方と大事な話をしてきたそうだ。
驚いたことに、ミルさんは、伯爵令嬢だった。今まで、偉ぶることもなく、いつも優しかったミルさんが貴族だったなんて本当に驚いた。
「黙っていてごめんなさい」
「いいえ、私の方こそ……。あの、ピラー様とお呼びした方が」
「そういうの嫌だから、黙っていたの。今まで通りにして欲しいわ」
「は、はい!」
まるで、魔人が現れる前に、戻ったみたいに幸せな毎日が過ぎていく。
でも、その幸せがいつまでも続くはずないって、分かっている。
わかっていたはずなのに、私は溺れてしまった。
だって、私の隣で、レナルド様が笑っていたから。
好きだという言葉は、やっぱり嬉しかったから。
『ねえ、理沙は聖女に戻りたい?』
「え?」
『聖女に戻れるとしたら、どうしたい?』
猫の姿で、私の膝に乗っていたシストが、ペロペロと白い毛に覆われたピンクの肉球がある前足を舐めながら、私に尋ねてくる。