――――だめだ。シストは信用できない。
『まあ、もう守護騎士じゃ、ないけどね?』
シストの、諦めたような、蔑むような、憐れむような声が聞こえる。
俺に持ち掛けた契約を、リサにも持ち掛ける封印の箱。その狙いが何なのか、わからない。
それなのに、呪いのせいなのか、シストとの契約のせいなのか、それ以上言葉を発することもかなわない。
リサは、契約を受け入れてしまった。
リサを包んでいつも守っていた、桃色の光が失われていく。
あんなに、リサが聖女の鎖から、逃れられる方法を探していたのに、それがこんなものだなんて。
『……いいよ? それなら助けてあげる。その代わり、このあと、すご~く大変だと思うけど、がんばってくれるよね? 聖女の名の代わりに、君の名前を返そう。がんばってね? 理沙』
その瞬間、プツリと音を立てて、聖女と守護騎士をつないでいた誓いの魔力の糸が途切れた。
その代わりとでもいうように、赤いリボンが俺とリサの小指をつなぐ。
まるで、運命からは、もう逃れられないのだとでもいうように。
『理沙は、眠ってしまったね? さあ、レナルド。守護騎士でなくなっても、僕の大事な聖女。大事な理沙を守ってね?』
「――――目的はなんでしょうか」
『理沙は、彼女によく似ている。永い時間たったけれど、僕の願い、望み、その両方は、レナルドと変わらない。だって、レナルドは僕によく似ているから』
守護騎士でなくなってしまった俺は、聖女でなくなった彼女を守り抜く。
それは、とても自由で、それなのに、押し込んでいた気持ちの蓋が開いてしまえば、愛と名のつくだろうそれは、とても、暗くてドロドロとした感情だった。
それでも、リサに笑ってほしい俺は、もう一度だけその思いに、無理やり蓋をした。


