「――――大丈夫ですから」
「思ったよりも、抵抗が激しかったな。そもそも、聖女にかけるための呪いに、ただの騎士がここまで抵抗するとは予想外だ。やはり聖女と対をなす存在だけあるな」
「早く、封印の箱を稼働してください」
――――その顔、今までで一番、心にくるな。本当に、そんな顔しないで欲しい。
悲壮なリサの表情。少しだけ、ほんの少しだけ後悔の二文字が浮かぶ。
『そう、君の役目を、果たして。僕はそれに答えるだけだから。理沙』
赤いリボンがほどけて、ヤギみたいなツノと鳥みたいな手を持つ魔人の腕に絡みつく。攻撃とも言えないそれは、魔人相手には、あまりにお粗末だ。
手を抜いているのかと、シストを睨みつける。
『僕にも限度があるんだよ。今まで、歴代の聖女によって倒された魔獣の魔力、君にその大半を分け与えてしまったんだから』
本当に、シストは、信用ならない。
俺を守護騎士でなくした上に、リサにまで何をしようというんだ。
「――――100年なんて、魔人にとっては、ほんのひと時だ。それでも、力の回復には、少し足りない。まあ、聖女を手にかけることはできなかったが、半分は目的が達成できたようだ。良しとするか」
そのまま、魔人は、赤いリボンを引きちぎって姿を消す。
体の中の魔力が、全て作り変えられていく悍ましい感覚に、膝をつく。
何とか、魔人を撤退させても、呪いが全身を蝕むまで、少しの猶予しかないようだった。
そんな俺に駆け寄ってくるリサに笑いかける。


