そんなことを熟考する間も無く、足を踏み入れた途端、景色が歪んで周囲は廃墟になる。
とっさに、魔法障壁を張ったリサ。
彼女を逃がさなくては、そう思った時、彼女の唇が次の魔法を紡ごうとした。
――――聖女が仲間を逃すための魔法。
リサの唇を塞ぐ、そのせいで彼女だけでも逃がそうと、転移石に伸ばした手は、間に合うことなくリサに阻まれて空を切る。
どうして、守護騎士を先に逃がそうなんて、するんですか。
あなたをそばで、守るはずの守護騎士を。
けれど、その言葉を伝えることすらできない。
今だけが、彼女を逃がすことができる、最後のチャンスだったらしい。
「…………レナルド様」
「…………先ほどは、逃げて下さいと願いましたが、これは、戦う以外の選択肢は無さそうですね」
絶望に支配されそうだ。相手は確実に俺より強い。ヤギのようなツノ、鳥のみたいな手、人とは違うそれの名前は魔人。
迷うこともなく斬り込む。リサが守れるのなら、死など恐ろしくなかった。
だが、剣は宙を斬り、リサの苦痛に呻く声が聞こえる。
全身の血が、一気に引いて寒気すら覚える。
この命を捧げてすら、俺には、助けられない。
その時、耳の横で、抗う余地のない囁き声が聞こえた。


