そんなある日、聖女に出撃命令が下った。
「レナルド様は、侯爵家のお方なのですよね?」
「その通りですね」
「――――私なんかに、ついてくる必要ないのでは?」
俺のことを気遣ったであろう、その言葉に、思いのほか傷ついた自分に驚く。
もう、傷つく心なんて、ないと思っていたのに。
「聖女様の守護騎士が、おそばを離れるはずもないでしょう」
それでも、リサのそばにいたいと、その感情を押し殺して笑う。
それに、あの時みたいに、不安で瞳を揺らす彼女を、隣ですべてから守りたかった。
「どうして守護騎士になったんですか。断ることができたって、皆さん言っていましたよ」
「――――その顔」
「え?」
「この世界に呼ばれた時にも、不安そうなその表情をしていましたよね。……聖女様が戦いの場に立つ必要はありません。そのための守護騎士です。どうか、代わりに戦うように命じてください」
そう、人のことなんて言えない。
自分が一番、リサに執着している。
多分聖女ではない、リサという個人に。
その名を呼べないことが、日に日に苦しくなっていく。
リサが、聖女としての使命を、全うしようと、危険を顧みず飛び込んでしまうほどに。
「私も戦います」
少しだけ驚いた、戦いのない世界から来たというリサのその言葉。
それでも、リサなら、そう答えるのだろうと、あきらめ交じりに納得したのも、事実だった。


