そのあと、私には王宮の中ではそれなりに、私にとってはとてつもなく豪華な一室が与えられ、専属の侍女もついた。

「聖女様、何なりとお申し付けください」
「ありがとうございます……。私は、理沙と言います。よろしくお願いします」
「――――聖女様。そのお名前は、神聖なもの。ご本人であっても、簡単に口にしてはいけません」

 ピシャリと私にそう言うと、侍女は退室していった。
 このやり取りの後、私は侍女にものを頼むのをためらうようになった。

 名前を言ってはいけない……。では、これから、聖女と呼ばれるのだろうか。私の名前は、いったいどこに行ってしまったのか。

 そして、それ以上に気になることがあった。なぜか、部屋の端っこに、騎士が一人直立不動で控えている。

「あの……」
「私はレナルド・ディストリアと申します。聖女様の守護騎士を拝命いたしました」
「――――あなたも、私のことを名前で呼んではいけないの?」
「もちろんです、聖女様。しかし、守護騎士は、聖女とともにある運命です。守護騎士の誓いを捧げましょう。一度だけ、その神聖な言葉を口にすることをお許しください」
「えっ、あの?」
「ただ許すと、お答えください」
「許します……」
「守護騎士として授かった栄誉、この剣に誓い、リサ様をお守りいたします」

 シーンと部屋の中に静寂が広がる。もう、静かすぎて耳が痛い。

「もう一度、許すと」

 笑顔で告げている割には、有無を言わせぬ雰囲気を感じる。
 侯爵家のお方らしいものね。貴族の威厳というものなのだろう。

「許します……」

 その瞬間、私の足元から桃色の光があふれ出した。
 星と月、太陽に彩られた、桃色の可愛らしい魔法陣。それは、キラキラ光る桃色の粒子になって、レナルド様の剣に吸い込まれていった。
 それは、私が発動した、初めての魔法だった。

「ま、魔法!」

 初めて魔法を目の当たりにした私は、目を丸くしてその光景を見つめるしかなかった。
 あとから、聞いた話では、守護騎士というのは一生に一人しか持つことができないし、守護騎士になれるのもたった一回だけということだった。

 だからその日、レナルド様と私は、この世界でたった一組の、守護騎士と聖女という関係になったのだった。