「レナルド様?」
レナルド様の、低く耳に心地よく響く声が、私の名前を呼んだ気がした。
それは、懐かしいのに、ひどく私を不安にさせる音だった。
辺境の荒野。その中心に、なぜかその場所だけ緑豊かに存在する村。
その理由の一つが、魔女様と呼ばれる元聖女の存在だろう。
「――――どうして、魔女様と呼ばれるのですか?」
隣で柔らかい笑みを浮かべる老婦人に、勇気を出して私は尋ねてみる。
不躾であることは理解している。それでも、私は聞かずにはいられなかった。
「――――聖女の名を呼び、愛して良いのは、神だけだから」
「……おっしゃる意味が、分かりません」
「私は、聖女であることより、たった一人を愛することを選んだの。後悔はないわ。でも、その選択をした日から、私は聖女と呼ばれなくなったの」
この世界に来てから、シストのほかには、私のことを名前で呼ぶ人はいなかった。
出会ったあの日、守護騎士の誓いで、私の名を呼んでくれたレナルド様以外は。
――――では、聖女ではなくなった私も、今は魔女なのだろうか。
「……たぶん、リサさんは違うわ。私は、聖女の使命から逃げて、たった一人に愛されることだけを選んでしまった」
世界でたった一人、レナルド様のことだけを選んで、二人で逃げだす。
そんな未来を、想像しないわけではない。
きっと、レナルド様は、どこまでも私のことを大切に守ってくれる。
それは、甘くて、柔らかくて、ほろ苦い、幸せな未来。
「ナオさんは、幸せでしたか?」
「後悔はないの。でも、あの人がもういない今、許されるなら私は、もう一度、聖女として生きたい。それに、たぶん私が、聖女から逃げたせいで、リサさんは、召喚されてしまったのだと思うの。贖罪にはならないかもしれないけれど、力になりたいわ」
「――――私は」
レナルド様の、低く耳に心地よく響く声が、私の名前を呼んだ気がした。
それは、懐かしいのに、ひどく私を不安にさせる音だった。
辺境の荒野。その中心に、なぜかその場所だけ緑豊かに存在する村。
その理由の一つが、魔女様と呼ばれる元聖女の存在だろう。
「――――どうして、魔女様と呼ばれるのですか?」
隣で柔らかい笑みを浮かべる老婦人に、勇気を出して私は尋ねてみる。
不躾であることは理解している。それでも、私は聞かずにはいられなかった。
「――――聖女の名を呼び、愛して良いのは、神だけだから」
「……おっしゃる意味が、分かりません」
「私は、聖女であることより、たった一人を愛することを選んだの。後悔はないわ。でも、その選択をした日から、私は聖女と呼ばれなくなったの」
この世界に来てから、シストのほかには、私のことを名前で呼ぶ人はいなかった。
出会ったあの日、守護騎士の誓いで、私の名を呼んでくれたレナルド様以外は。
――――では、聖女ではなくなった私も、今は魔女なのだろうか。
「……たぶん、リサさんは違うわ。私は、聖女の使命から逃げて、たった一人に愛されることだけを選んでしまった」
世界でたった一人、レナルド様のことだけを選んで、二人で逃げだす。
そんな未来を、想像しないわけではない。
きっと、レナルド様は、どこまでも私のことを大切に守ってくれる。
それは、甘くて、柔らかくて、ほろ苦い、幸せな未来。
「ナオさんは、幸せでしたか?」
「後悔はないの。でも、あの人がもういない今、許されるなら私は、もう一度、聖女として生きたい。それに、たぶん私が、聖女から逃げたせいで、リサさんは、召喚されてしまったのだと思うの。贖罪にはならないかもしれないけれど、力になりたいわ」
「――――私は」


