キョトンとしている私をよそに、二人の会話は進んでいく。
「シスト、ここ数日で聖女の力が急に強くなっているわ。予言は早まったのね? 私でも、そこそこの結界は張れそうよ」
『力を使ったら、愛する人に、名前を呼んでもらえなくなるよ。菜緒』
「もう、その人はいないわ」
『そっか。……幸せだった?』
「ええ、もちろん」
なぜか、ナオさんが、聖女みたいな話になっている?
でも、それなら、納得できることが、沢山ある。
「私の名前を呼べるのは、この村でナオさんと、シストだけ」
「そうね。黙っていて申し訳なかったわ。でも、私には、あなたが今代の聖女なのだとすぐに分かった」
「もう、聖女じゃないんです」
「それはどうかしら? あなたはまだ聖女だわ。その証拠に」
チラリと、ナオさんが見たのは、珍しく神妙な雰囲気のシストだった。
「村人は、あなたの名前を呼ばない。そして、封印の箱と、いいえ、その中身と共にある」
『中身って……。人をモノみたいに言わないで、菜緒』
「ふふっ。こんなに可愛らしかったのね?」
『本当の姿じゃないけど』
魔人が、聖女の名をなくしただけで、満足するとは思えない。半分だけ、目的を達成したと言っていた。
レナルド様の元に帰ろう。
名前を呼んでもらえるとか、もらえないとか、好きとか、好かれてないとか、そんなことよりも。
レナルド様の力になりたい。
そばにいたい。


