『おはよう、お寝坊さんだね。理沙は』
「……おはよう。シスト」

 目覚めると、私の頬を白い子猫が舐めていた。ザリザリとした感触が、少し痛い。

『夢を見た?』
「うん、仲間たちの夢」

 詳細は思い出せない。夢なのだから、仕方ない。
 でも、今回の夢は、聖女の称号を失う前には、良く見ていた予知夢に近い。

 過去だったり、未来だったりするけれど、それは私に何かを知らせてくれていた。

「レナルド様が、また無茶なことをしようとしている気がする」
『理沙が夢を見てそう思うなら、事実だろうね』
「もう、聖女じゃなくなったのに? そういえば、聖女じゃない私に、なんでシストはついてきているの?」

 聖女が描かれる時、左肩の上には必ず、封印の箱が浮かんでいる。……初代聖女を除いて。

『さあ、それは理沙が自分で考えて?』

 そう言われて、改めてシストのことを考える。

 魔人が現れたことを黙っていた。
 封印の箱のはずが猫の姿になってしまった。
 私が王都から逃げるのを手伝ってくれた。

「……シストは、敵じゃないよね?」
『そうだね。少なくとも、僕は理沙の敵じゃない』
「じゃあ、誰の敵?」
『……聖女の敵の敵』

 禅問答みたいな、シストの言葉。
 でも、あとから考えれば、それが答えだったというのは、良くあることだ。

 それ以上は、答えるつもりがないとでも言うように、シストは、ゴロリと寝そべる。

 だから私は、先ほどの夢に思いを馳せる。
 夢の中のレナルド様の声も瞳も、冷たく硬質で、私といる時とは違っていた気がした。