「せ、いじょ、様」
「レナルド様?」
「り、さ」

 それなのに、傷が消えた瞬間、レナルド様は、ひどく辛そうに顔を歪め、なぜかとても苦しそうに喉元に手を添えて、私の名を呼んだ。
 頬に触れていた私の手が、そっと掴まれて、なぜか手のひらに口づけされる。

「………………リサ。聖女の魔法、もう使わないでくれませんか」
「え? なぜですか」
「俺が、守るから。そばにいて、守るから。もう、聖女になんて、ならないで」

 なぜか、レナルド様が、泣きそうに見える。
 婚約を申し込んだり、距離感がおかしかったり、いつも私から一定の距離をとって、微笑んでいた守護騎士様と、同一人物なのだろうか?

 でも、ようやく私にも理解できてしまった。
 聖女の力を持たない私は、本当にこの国にとって、いらない存在なのだと。
 この王国の秘匿されるべき情報を、たくさん知ってしまった私は、多くの人に狙われる立場になってしまったのだ。

 このまま、ここにいたら、どうしてもレナルド様の負担になってしまう。

「婚約して欲しい」
「……責任なんて、取らなくても」

 少しだけ、浮かれてしまっていた。
 大好きで尊敬するレナルド様が、私を守るために婚約を申し出てくれているなんて、ほんの少し考えれば、わかることなのに。

 真面目なレナルド様のことだ、婚約するからと、無理に距離を詰めすぎて、おかしな距離感になっていたのだろう。

 レナルド様は、壁に寄りかかったままだ。
 軽い寝息が聞こえるから、立ったまま寝ているのだろう。

 このままでは、ダメだ。
 私は、密かに覚悟を決めたのだった。