その言葉、全く大丈夫だって、思えないです。
トラウマになっているのかもしれない、レナルド様の『大丈夫だから』という言葉が。
トンッと、軽く跳躍したレナルド様が、私のいるベッドを飛び越えて、窓を開け放つ。
「ここ、3階……」
「そこにいて」
体を屈ませて、窓枠に足を掛けたレナルド様は、振り返ることなく飛び降りた。
その、聖女の守護騎士だけが纏うことを許される、藍色のマントが、ふわりとひらめく。
そう、この世界に来てから、無意識に寝ている時にすら結界を張り続けていた私は、理解できていなかったのだ。
聖女の恩恵をほとんど失った自分が、どれほど危険に晒されているのかを。
くぐもった声と、剣が交差する甲高い音が、暗闇から聞こえてくる。
それはおそらく、時間にしてほんの数分のことだったに違いない。窓に近づくこともできずに、震えながら、レナルド様を待つ。
ややあって、どうやって上がったのか、窓からレナルド様が、トトンッとほとんど音も立てずに、戻ってきた。
その頬には、小さな擦り傷。
レナルド様に、傷を負わせるなんて、よほどの手練れでなければ、不可能だ。
たぶん、レナルド様が、そばに控えていてくれたから、私は無事なのだ。
「レナルド様は、私を守るために?」
そっとレナルド様のそばに寄る。
そして、私はその頬の傷に手を当てて、回復魔法を使った。
良かった。回復魔法は、使えるみたい。
桃色の光が溢れると、見る間に、傷は小さくなって、消えた。私は心から、安堵の息を吐く。


