そうとなったら、話は早い。
早く、魅了を解かなくては、このままでは、状態異常が解けた時に、レナルド様が自分の言動のせいで悶えてしまう。
ロイド様も、状態異常が解けた後、3日間もの間、私と目も合わせてくれなかったのだから。
「状態異常解除……。あっ」
残念なことに、魔法が発動しない。
私は、すでに聖女ではなくなってしまった。
つまり、簡単な治癒魔法しか使えない。
こうなってしまっては、もう残された手段は一つしかなかった。私は、ポシェットに忍ばせていた、とっておきのガラス瓶の蓋を開ける。
「レナルド様。ごめんなさい!」
バシャッと、音がして、レナルド様の美しい薄水色の髪に水が滴る。
もしもの時のために、聖水を作り溜めしておいて、良かった。特にこれは、その中でも自信作だ。
これで、状態異常が解けるはず。
「……リサ?」
「ひゃ?」
濡れてしまった髪の毛を、気怠げにかきあげるレナルド様。たぶん、これを見た令嬢たちは、あまりの麗しさにバタバタと倒れてしまうに違いない。
私も、レナルド様のことを日頃、見慣れていなかったら、倒れたかもしれない。
「あ、あの。濡らしてしまってごめんなさい。……元に戻りましたか?」
「……何がです?」
首を傾げて、私を見つめるレナルド様。
大丈夫です。ロイド様も、魅了が解けた後は、しばらく呆然としていましたから。
それなのに、その後も、レナルド様と私の距離は、信じられないくらい近いままだった。


