そうだ、名前。
「レナルド様? 私の名前……」
「ああ、やっとリサの名前を呼ぶことができる」
「え?」
「ずっと、こんなふうに名前を呼びたかったんです。気がつきませんでしたか?」
気がついてない。たしかに、この世界に来てから、私の名前が呼ばれたのは、守護騎士の誓いを立ててくれた時、レナルド様に呼ばれた、ただ一回だけだった。
その後から、三日前の事件まで、私の名前を呼ぶ存在は、シストしかいなかった。
そういえば私、聖女では、なくなったんだ。
今まで自然と使うことができた、魔法の大半が発動できなくなっている。治癒魔法だけは、何とか使えるみたいだけれど。
それは、確かに聖女という称号が失われてしまったことを意味している。
「……外に集まっている人たちは」
「そんなことより、婚約して下さい」
そんなことって、たぶんあの人たち、私が聖女じゃなくなったこととか、魔神が現れたことで、押しかけてきているんですよね?
この場所がどこなのか分からないけれど、間違いなくレナルド様には、多大な迷惑をかけているに違いない。
「そんなことって。…………ところで、今さっき、なんて言いました?」
「リサ、俺と婚約して」
聞き間違いではないらしい。それに、私を見つめて少し目元を赤くした、美貌の騎士様。
吐息がかかりそうなくらい、距離が近い。
いつもと全く違うレナルド様の様子と距離感、その言葉に、自分が置かれた状況も忘れるくらい、私の頭の中は、真っ白になるのだった。


