「思ったよりも、抵抗が激しかったな。そもそも、聖女にかけるための呪いに、ただの騎士がここまで抵抗するとは予想外だ。やはり聖女の…………な、だけあるな」
遠くのほうで、魔人の声が聞こえてくる。
夢だったらいいのに。受け入れたくないと、心の中の大事な場所が、この現実を拒否してる。
「早く、封印の箱を稼働してください」
その声にようやく私は、我に返る。
剣を支えにして、私を背中に隠すようにレナルド様が立ち上がる。
その体を、薄気味悪い淡い緑色の光が包み込んでいく。
無理をすればするほど、抵抗するための魔力は消費され、呪いにその体が蝕まれる。
「――――シスト!」
その瞬間、私の左肩、少し上の空間でクルクル回っていた箱が、ガチャンと音を立てる。
『そう、君の役目を、果たして。僕はそれに答えるだけだから。理沙』
中継ぎ聖女には必要がないと、いつも冷笑を浴びせられていた封印の箱。
血が出るほど、噛み締めた唇。そう、今は目の前の魔人を封印することに、全力をかけるべきだ。
神聖なはずの封印の箱を、プレゼントみたいに見せていた赤いリボンがほどけて、ヤギみたいなツノと鳥みたいな手を持つ魔人の腕に絡みつく。
「――――100年なんて、魔人にとっては、ほんのひと時だ。それでも、力の回復には、少し足りない。まあ、聖女を手にかけることはできなかったが、半分は目的が達成できたようだ。良しとするか」
そのまま、魔人は、赤いリボンを引きちぎって姿を消す。


