淡い緑色の光は、まるでスライムみたいにうごめいて私の足首にまとわりつく。
その瞬間、悍ましいほどの、悪意が私の中に入り込んでくるのを感じた。
「うぁっ……」
恐怖と入り込んでくる悪意の気持ち悪さに、私は小さくうめき声をあげる。
それなのに、いくらたっても、それ以上、私の足元から、呪いが入り込んでくることはなかった。
その意味を理解するのに、少しの時間を要した。
「大丈夫ですから」
私の手首をつかんでいるのは、恐ろしい魔人ではない。
温かいその手が、背中が、いつも私を守ってくれたから。
目の前にいる人が、私の代わりに、その悪意を受け入れていく姿を、信じられない思いで、見つめる。
「――――聖女を守るための、守護騎士の魔法か……。それにしても、予想外だ。魔力がすでに底をつきそうだ……。恐ろしいほど強いのだな。剣聖を越えているのか?」
復活するのには、早かったせいなのか、魔法を使っているせいなのか、魔人がそれ以上私たちを攻撃してくる様子はない。
でも、それは、魔人が放った呪いに、レナルド様が抵抗しているからなのだ。
大丈夫なはずないのに……。どうして、私の身代わりになんてなろうとするの。
私が聖女で、レナルド様が守護騎士だからなの?
それなら私は、もう聖女なんてやめてしまいたい。
「――――大丈夫ですから」
レナルド様はもう一度、そう言った。しかも、ほほ笑んで。
だってこれは、ただの呪いじゃない。100年後に世界を滅ぼそうとする、魔人の呪いだ。
どんなにレナルド様が強くたって、無事で済むはずがない。
ボロボロと涙が流れ落ちて、ようやく私は気が付いた。
レナルド様しか、いないのだと。
私が必死で、この世界を守ろうと、聖女でいようとした理由は、目の前にいる守護騎士様の期待にこたえたいという理由しか、なかったのだと。


