足を踏み入れた途端、私は、反射的に魔法障壁を張る。
今まで、たくさん怖い目にあってきたけれど、こんなにも危機感を間近に感じるのは初めて。
村の姿は、あっという間に廃墟に変わり、先ほどまでの光景は、私たちを誘い込むための幻影だったことに今更ながら気づく。
反射的に、私はレナルド様を振り返る。
レナルド様だけでも、逃さなくては。聖女の魔法の中には、緊急時仲間を逃す術がある。
その魔法を口にしようとした瞬間、ラベンダーの瞳を揺らすこともなく私を見つめるレナルド様が、私の口を手で塞いだ。これでは、魔法を発動することができない。
私も、ほぼ同時に、レナルド様がもう片方の手でつかもうとした、私の首に輝く転移石のはめ込まれたネックレスを使わせまいと握りしめる。
お互いたぶん、同じことを考えた。相手だけでも、逃がそうとした。
でも、よく考えてみれば、レオナルド様だけ逃がしても、どんな手を使っても戻ってきて、私を助けようとする気がした。
違う。この世界に来てから、いつもそうだったのだから、私もそろそろ学んだ方がいいのだろう。
気がするのではなくて、実際にそうなるに違いない。
「…………レナルド様」
「…………先ほどは、逃げて下さいと願いましたが、これは、戦う以外の選択肢は無さそうですね」
ここまで来てしまったら、逃してもらえないだろう。
そして、相手の狙いはたぶん、聖女。
目の前にいるのは、明らかに人とは違う生き物だとわかる。ヤギのようなツノ、鳥のみたいな手。実物を見たのは初めてだけれど……。
一生見ることはないと思っていたのだけれど。