「レナルド様。王都に戻ったら、被害が拡大してしまいます。聖女の魔法を使えば、一人ずつだけど、浄化できるはず。……私は残ります」
「っ……原因がわからない、危険です。それに、イヤな予感がします。王都に戻りましょう」

 この時、レナルド様の言葉に従うべきだった。
 けれど、その通りにしていたら、この小さな村だけではなく、王国全体が瞬く間に危機に陥っただろう。

 もしも、選択肢の先を私が知っていたなら、何を選んだだろうか。
 レナルド様のことを、巻き込んでしまうことと、王都の危機……。もしかしたら、その両方を天秤にかけてしまって、身動きが取れなくなっていたのかもしれない。

「――――レナルド様。このまま戻っても、往復4日はかかります」
「お気持ちは、変わらないのですか?」

 いつもであれば、私の選択に異議を唱えるなんてことをしないレナルド様。
 きっとこの時点で、この後の展開を予感していたのだろう。

「……ここで、助けることができた誰かを見捨ててしまったら、本当に私がこの世界に来た意味が、なくなってしまうから」
「聖女様……。では、約束してください。もし、大きな危険が訪れたら、逃げると」
「そうね。もちろん、逃げるわ」
「――――何があっても、お守りします」

 レナルド様が、私の黒い髪の毛を、そっと撫でた。
 その手は、温かくて、大きくて、緊張のせいで息を詰めていたことに気が付かされる。

 深呼吸をした、私の左肩の上で、シストは今日も、クルクルと回り続けている。
 でも、なぜか、先ほどから黙ってしまったままだ。
 いつもだったら、レナルド様と話をしていると、何かしらの合いの手を入れてくるのに。

 不思議に思いながらも、村の入り口に足を踏み入れる。
 その瞬間、気味が悪い光に包まれていながらも、穏やかな村という様相だった景色が様変わりした。