「目障りですわ! レナルド様も、迷惑されてますわよ!」
「きゃ!」
王宮に帰ってきた途端、私の日常はこれだ。
今日は、通りすがりの令嬢に、冷たい水を頭からかけられた。
王宮に出入りできるほどの、高位貴族のご令嬢が、わざわざ、私の頭にかけるために水を汲んできたのだろうか?
水で良かった。ワインだったら、シミが落ちなくなりそうだもの。
着る物がない私を心配して、レナルド様が用意して下さったドレスを汚してしまうのは、忍びない。
「聖女様に何をしている?」
「っ……レナルド様。なんの役にも立たない、この女が、私を愚弄したのです」
その言葉を聞いた途端に、微笑んでいたレナルド様の雰囲気が、魔獣を倒す時のそれになった。
「ひ……」
「ダメですよ。殺気をご令嬢に向けては」
「我が聖女様が、そう仰るのであれば、許しましょう」
令嬢が去ると、レナルド様は、混合魔法で温風を出し、私を乾かしてくれた。
混合魔法を使えるのは、王国でも数人しかいないらしいのに、才能を無駄遣いしている気がする。
「……申し訳ありません。離れたばかりに」
「国王陛下からのお呼び出しでしょう? 謝る必要がないです。ご迷惑おかけしました」
私が笑うと、レナルド様は、苦虫を噛み潰した顔をして「毒が含まれていたら、どうするんですか……。回復魔法で治るとしても、肌が焼けたら痛いですよ? もう少し危機感を持ってください」と言った。


