「それにしても、気難しいビアエルを手懐けただけでも驚きなのに、ロイドとも意思疎通できる聖女様は、大物よねぇ」
「え? 普通ですよ」
ミルさんが、口紅を塗り直しながら話しかけてくる。
これだけ見ると、楽しい女子トークな気もするが、残念なことに現在は戦闘中だ。
「それにしても……。あのレナルドって騎士。強すぎない? 称号ないんでしょ?」
剣聖のロイド様よりも、たくさんの魔獣を倒しているように見受けられるレナルド様。
たしかに、生まれ持った称号はないものの、この世界に来てから、ステータスが見える私には、守護騎士の称号が浮かんでいるのがはっきり見えてしまっている。
でも、守護騎士だから強いわけではないだろう。
レナルド様が、強いだけなのだ。
「――――本当に、私の出番ないですよね」
「……心の底からそう思っているから、困るのよね」
呟いたミルさんの言葉は、聞こえない。
私たちのほうに近づいてきた魔獣に、ミルさんが雷魔法を放ったから、轟音で聞こえなかった。
その直後に、レナルド様とロイド様の後ろから、魔獣が襲い掛かる。
私はあわてて、魔法障壁を立ち上げる。
戦場にはそぐわない、桃色の光とともに、バチンと魔獣を魔法障壁が弾いた。
「――――ほら。聖女に求められる、後衛としての役割。きちんと果たしている」
「え? たまたまですよ。ほめ過ぎです」
全体回復魔法とか、王都を包み込む結界とか、蘇生魔法とか、ゲームの中の聖女みたいな、強力な魔法が使えない私は、聖女としては落ちこぼれだろう。
ちらりと、遠くを見れば、いつもの千鳥足は演技だったのかなと思えるくらい俊敏に、ビアエルさんが敵をまた一体倒していた。
「……回復魔法を使える人間ってだけでも、希少なのに。無尽蔵な魔力に、解毒魔法、魔法障壁まで……。それに、聖女様が初めて戦いに参加した時の強大な魔法陣。その価値に周りが全く気が付かないなんて、守護騎士の影響力が恐ろしいわ」
――――なぜなのかしら。ミルさんをはじめ、パーティーの皆さんの私への評価が、異様に高いのは。
ちらり見つめる先、戦い続ける守護騎士レナルド様が、最後の魔獣を倒したようだ。
こちらに手を振るレナルド様は、珍しく笑顔だ。
守護騎士様は本当に頼りになるなと感心しつつ、私たちは魔獣から魔核を取り出す作業へと入るのだった。


