『――――真奈は、大事な人たちから、名前で呼ばれたい?』

 さっきまで苦笑交じりだったのに、シストの声は深刻だった。

『もし……。もしもだけど、それが真奈の一番の願いなら』
「シスト?」
『僕がかなえてあげるよ。あと少し待っていて』

 かわいい白い子猫。
 確かに、人の言葉をしゃべることができるから、普通の猫ではないのだろう。
 でも、何ができるというのだろうか。

 それに……。

 なんだか、願いを叶えてもらうのは、嫌だ。
 そう、まるで、自分を犠牲にして、真奈の願い事を叶えようとでもしているみたいだから。

 どうしてそんなことを思うのだろう。
 いつも、適当で、ぐうたらで、調子のいいシストが、急に深刻な声を出したからなのだろうか。

「――――私の願いは、そんなことじゃないわ」

 なぜなのだろう。シストはすでに、真奈の願いを一度叶えてくれているような気がした。
 それが一体何なのか、真奈にはどうしても思い出せないのだけれど。

『いつか、思い出してくれるのかな? 僕の大事な、真奈』
「私、記憶力はいいほうなんだけど?」
『そ、僕もだ。君のことなら、すべて覚えている』

 なんだか今日のシストは饒舌だ。
 そういえば、お父様が帰ってきたら、たぶんお祝いだとお母様が言っていた。
 よくわからないけれど、一万匹討伐記念だそうだ。

『――――ふふ。でもね、真奈が思い出してくれなくても、それはそれでいいんだ』
「シスト、この間の一万匹討伐記念のお祝いなら、ちゃんと考えて」
『うん、この数年間は、あれからの千年で一番幸せだったのは、間違いない』
「――――シスト」