数年後。生まれた少女は、黒髪にラベンダーの瞳。この世界で生まれた、聖女の称号を持つ初めての少女。
 そして、その隣には、いつでも可愛らしい白い子猫が、近づく人間を威嚇する。
 子猫と少女は、いつもお揃いの赤いリボンを身につけている。

 ついでに、極彩色の二匹のスライムも、聖女のそばを、離れることなく飛び回る。

『ね? レナルド頑張って、一万匹の魔獣を倒してよ。あと少しでしょ? 僕らの仲でしょう?』

 シストが、元の姿を取り戻すには、魔力で繋がるレナルド様が、魔獣を一万匹倒す必要があるらしい。

「どうして、可愛い娘を奪おうとする邪な獣のために、俺が魔獣を倒さなくてはいけないんですか」

 そんなことを言いながら、魔獣を倒し続けるレナルド様は、律儀にも倒した数を記録している。今日までで、3003匹倒したらしい。
 この調子なら、新たな聖女が大人になる前に、達成できそうだ。
 守護騎士の名前を返上したレナルド様は、今は周囲に英雄様と呼ばれている。カッコいい。

 王国には、新しい王がたった。王都もようやく再建した。なぜか、王都から逃げ出した王族と一部の高位貴族の行方は、わからないままだった。

 そして、もう、私の世界から、聖女が来ることはない。少し寂しいけれど、仲間と愛しい旦那様がいるから私は幸せだ。そして、愛しい娘も。

 聖女の称号は、一つの時代に一つだけ。
 聖女を引退した私は、魔女様と呼ばれている。
 今は、旦那様とシストだけが、私の名を呼ぶことができる。

「愛しい俺の奥さん、愛しい。……リサ」
「レナルド様、理沙でいいので、愛するとか付けないでほしいです」

 なぜか、名前を呼ぶことができるのに、レナルド様は愛しい俺の、という言葉がお気に入りだ。





 愛する娘は、周りから聖女様と呼ばれる。

 私より力が強いせいか、私は、名前を呼べないのに、白い子猫だけが『僕の真奈』と、彼女の名前を幸せそうに呼ぶのだ。彼女が言葉を喋り、全てを思い出す、再会の日を夢見て。