最後の地権者/その14
アキラ
オレは建田さんに、泉さんが提示してきた条件を告げた
建田さんは、何度もうなずきながら、話をじっくりと噛み砕くよう聞いてくれたよ
そして、オレの話を聞き終わると、穏やかだが真剣な顔つきで口を開いた
「…アキラ、その条件丸吞みだ。金額面も基本は、言われるままで行こう。一気に勝負かけようぜ。お前、やれるな?」
オレはちょっと躊躇して、すぐ言葉が出なかった
「兄貴…、ここから先は組のもんか、それなりのプロに任せた方がいいんじゃないか?ここまで来たら、ヘタはできないぜ」
その場には北原さんもいた
やはり重大局面を意識してるようで、いつものべらんめー調ではない、低いトーンで、慎重論を唱えた
「いや、今さら手慣れた者がやっても、かえってひっくりかえるだけさ。アキラじゃないと、いかず後家はつなげねえよ、もう…」
建田さんと北原さんのやり取りは続いた
「だけど、これからは専門的な話とかも出てくるし、誰か連れて行かせる位は必要だと思うけがな…」
「あくまでアキラ一人だ。あっちと会うのは。…まあ、話を聞いてそのまま持ってくるだけでいいんだ。今までよりかえって単純だ。アキラ、どうだ?」
オレは決断した
「…はい、オレ、やってみます!」
ここまで来たら最後までだ…!
この前、赤子さんからさんざん言われたけど、かえってすっきりして決心がついたよ
意外にも
少なくとも、これはオレの正直な想いだった
...
建田さんの読みはこうだった
泉さんの希望候補地、仙台地区の競売入札は決して多くない
従って、候補の物件があれば希望値で落札できる可能性は高いと…
そうなれば、仮に落札できた収益物件に空き室があれば転居先もそのまま決まる
で…、明け渡し期間プラスアルファで、立退きの時期が定まる
あとはこっちが、資金の流れを合せればいい
その辺を踏まえると、この夏にも立退きの目途という想定ができると…
オレはいわばその連絡係に徹すればいい
要は、そういういう見立てだった
...
「…アキラ、黙ってて悪かったが、石田コージさんからオファーきててな。お前の耳にも入ってるかもしれないが…」
建田さんは例の話を切り出してきた
「…それで、こういう事情だからって、ありのまま伝えたよ。この事案、決着つくまでアキラは手離せないとな。だけど、近いうちココはなくなるだろうから、今後も”話”、あったら優先で持ってきてくれって頼んどいた。今の想定だと夏過ぎが目安なんで、改めてそのくらいの時期でって、お願いするからさ、それで勘弁してくれや」
建田さんはそう言って、俺に頭を下げてくれた
オレ、こういうのに、きわめて弱い
「アキラよー、兄貴もおまえのこと、大事に考えてる。ぜひ力貸してやってくれや、なあ…」
兄弟分の北原さんも、手慣れた絶妙のフォローだった
「…わかりました。やります、最後までお願いします!」
オレがそう言うと、建田さんは、オレの手を握ってきた
「ああ、こっちこそだ!ココが閉鎖となった後の、アキラの道筋はきちっと面倒見させてもらうからよう…。そのくらい、赤子からギャーギャ-言われなくったって心得てるよ。ハハハ…」
赤子さん、そこまでプッシュしてくれてたんだ…
...
「しかし、アキラはここまでよくやったなあ…、大したもんだ。間宮や浅田にもコイツを見習えって言ってやった方がいいぞ、兄貴。堅気に仕事持ってかれて…。俺から一喝してやるか⁉」
「そうだな。ヤツらには、お前からだと効き目めあるしな…、ハハハ…。アキラ、今日はまあ、とりあえず気持ちだ。俺と北原からのな」
そう言うと、北原さんがスーツから封筒を取り出し、オレに手渡した
後で確認したら、10万円入っていた
「…これ決まったら、当然たっぷり弾むからさ。しっかり頼むぜ!」
この日、今年の夏がオレの”転機”になる直感がした…
アキラ
オレは建田さんに、泉さんが提示してきた条件を告げた
建田さんは、何度もうなずきながら、話をじっくりと噛み砕くよう聞いてくれたよ
そして、オレの話を聞き終わると、穏やかだが真剣な顔つきで口を開いた
「…アキラ、その条件丸吞みだ。金額面も基本は、言われるままで行こう。一気に勝負かけようぜ。お前、やれるな?」
オレはちょっと躊躇して、すぐ言葉が出なかった
「兄貴…、ここから先は組のもんか、それなりのプロに任せた方がいいんじゃないか?ここまで来たら、ヘタはできないぜ」
その場には北原さんもいた
やはり重大局面を意識してるようで、いつものべらんめー調ではない、低いトーンで、慎重論を唱えた
「いや、今さら手慣れた者がやっても、かえってひっくりかえるだけさ。アキラじゃないと、いかず後家はつなげねえよ、もう…」
建田さんと北原さんのやり取りは続いた
「だけど、これからは専門的な話とかも出てくるし、誰か連れて行かせる位は必要だと思うけがな…」
「あくまでアキラ一人だ。あっちと会うのは。…まあ、話を聞いてそのまま持ってくるだけでいいんだ。今までよりかえって単純だ。アキラ、どうだ?」
オレは決断した
「…はい、オレ、やってみます!」
ここまで来たら最後までだ…!
この前、赤子さんからさんざん言われたけど、かえってすっきりして決心がついたよ
意外にも
少なくとも、これはオレの正直な想いだった
...
建田さんの読みはこうだった
泉さんの希望候補地、仙台地区の競売入札は決して多くない
従って、候補の物件があれば希望値で落札できる可能性は高いと…
そうなれば、仮に落札できた収益物件に空き室があれば転居先もそのまま決まる
で…、明け渡し期間プラスアルファで、立退きの時期が定まる
あとはこっちが、資金の流れを合せればいい
その辺を踏まえると、この夏にも立退きの目途という想定ができると…
オレはいわばその連絡係に徹すればいい
要は、そういういう見立てだった
...
「…アキラ、黙ってて悪かったが、石田コージさんからオファーきててな。お前の耳にも入ってるかもしれないが…」
建田さんは例の話を切り出してきた
「…それで、こういう事情だからって、ありのまま伝えたよ。この事案、決着つくまでアキラは手離せないとな。だけど、近いうちココはなくなるだろうから、今後も”話”、あったら優先で持ってきてくれって頼んどいた。今の想定だと夏過ぎが目安なんで、改めてそのくらいの時期でって、お願いするからさ、それで勘弁してくれや」
建田さんはそう言って、俺に頭を下げてくれた
オレ、こういうのに、きわめて弱い
「アキラよー、兄貴もおまえのこと、大事に考えてる。ぜひ力貸してやってくれや、なあ…」
兄弟分の北原さんも、手慣れた絶妙のフォローだった
「…わかりました。やります、最後までお願いします!」
オレがそう言うと、建田さんは、オレの手を握ってきた
「ああ、こっちこそだ!ココが閉鎖となった後の、アキラの道筋はきちっと面倒見させてもらうからよう…。そのくらい、赤子からギャーギャ-言われなくったって心得てるよ。ハハハ…」
赤子さん、そこまでプッシュしてくれてたんだ…
...
「しかし、アキラはここまでよくやったなあ…、大したもんだ。間宮や浅田にもコイツを見習えって言ってやった方がいいぞ、兄貴。堅気に仕事持ってかれて…。俺から一喝してやるか⁉」
「そうだな。ヤツらには、お前からだと効き目めあるしな…、ハハハ…。アキラ、今日はまあ、とりあえず気持ちだ。俺と北原からのな」
そう言うと、北原さんがスーツから封筒を取り出し、オレに手渡した
後で確認したら、10万円入っていた
「…これ決まったら、当然たっぷり弾むからさ。しっかり頼むぜ!」
この日、今年の夏がオレの”転機”になる直感がした…



