マッド★ハウス

最後の地権者/その12
アキラ


シャワーを浴びて、部屋で涼んでいると電話が鳴った

受話器を取ると、赤子さんからだった

「ああ、私だけど、今大丈夫か?」

オレが「ええ」と言うと、赤子さん、ズバリ用件に入った

「石田さんがギターを1人探してる。私、アンタを推薦しといた。プロ、一気にどうだ?」

「どういうことですか?」

「私も1度しか会ってないんだけど、中堅バンドで、リーダーがギターだから、サイドでいいんだ。アンタでもなんとかなると思う」

どうやら、オレのプロデビューを打診してくれてるるらしい

赤子さんがここからプロに巣立った時から、いずれはオレもって言っててくれたけど…

いくらなんでも、オレ…、まだ素人だよ、実際

「あの…、オレなんか、まだギター握って2年経ってないんですよ。無理ですよ。赤子さんが一番、知ってるはずでしょ?」

「怖いのか?」

「怖いですよ、そりゃめちゃくちゃ!当然でしょ?それに今、ちょっと…、K地区最後の地権者の件で立て込んでて…」

「フン…、アンタ!最近、建田興業の地上げ、首突っ込んでるってな?いつからやー公の下請けに成り下がったんだ‼」

赤子さんは強い口調で詰問した

「成り行きですよ…。なんとなくそういう状況で…、今、少しうまくいきかえてるんですよ…」

ここまで言うが早いか、赤子さんは大声で怒鳴ってきた

「アホー‼このヤロー、マッドハウスの借金はもう返したんだろうが!今更、例の雑用かよ⁉いつまでそんなんだよ!バカか、お前、クソだよ‼」

そう言って、電話はいきなり切れた

こりゃ、かなり怒らせちゃったわ、参った…


...


数分して、また電話のベルが鳴った

再び、赤子さんだった…

「もしもし、アキラか?…、さっきは悪かったなとか、言わないからな、アタシ!」

「わかってますよ。言いたいこと、全部言ってくださいよ。いっそ」

「よし、言ってやる、全部な!…私の耳にもいろいろ入ってきてるんだよ。まず、今のバンドブームは本物だよ。だから、アマの連中がはやってる。3代目のローラーズは去年、アンタ以外でプロデビューした。その後、ローラーズのメンバー募集、すげえ数の応募あったの知ってるだろ、アンタだって?」

「ええ…。でも、オレはとりあえず、横滑りでいいって決まってますよ」

「承知だ、アタシも。で、4人決まったろ?奴ら金、積んでるぞ、建田に!要求はプロへの道、それのみだ。そいつらとアンタの5人が4代目ローラーズだ、これから。これ、どういう意味か理解してんのかよ⁉」

「…良くわかりません」

受話器の向こうからハァ~~?という、いかにも呆れたといったタメ息が聞こえた

「やっぱりヌケてるわ、アンタは…、肝心なとこがさ。いいか!奴ら、しっかり把握してんだぞ!地上げ急ピッチで進んでることをさ。マッドハウスの専属バンド、ローラーズでプロに進むチャンスは、4代目がラストチャンスだと踏んでのことなんだってば‼」

赤子さん、やっぱり結構、酒飲んでるようだ…

マシンガンのように説教口調だし

「…K地区の地上げ完了したら、小屋、更地だもんな。マッドハウスなくなっちゃうんだし!…奴ら、プロへの近道だけで、マッドハウス来てんだぞ。私から言わせりゃ、ハートなんかねえよ‼だけど、執念は凄いわ、ある意味で。アンタも見習った方がいいぞ、そこはさ」

赤子さんの言ってる主旨、やっとわかってきた…