マッド★ハウス

最後の地権者/その7
アキラ



オレは隣にいる建田さんに、泉さんの感触を自分の言葉で伝えた

泉典子さんは、最後の一世帯という状況は十分理解している

ただし、プライドというか、意地みたいな、譲れない気持ちも強く持っているようだと

建田さんは俺の顔、じーっと見つめながら、噛み砕くように聞いていた

そして…

「いいかアキラ…、年が明けたら、まず挨拶に行って来い。玄関先で軽くでもな。…そん時は手ぶらでもいいだろ。あくまで、お前個人というニュアンス持ってもらえるようにな…。それで、そのあとだが…」

建田さんはその都度、考えを巡らせながら、しゃべってるようだ

「…うん、次は外で買い物でもしてる時、偶然装って声かけてみろ。そうだな、ギターを肩に背負ってた方がいいな。ここでは立ち話でなんでもいいから、なるべく長く話してみろ。何でもいいぞ。向こうから何か聞かれて、お前が答えるパターンがいいな、とりあえずは…」

さすが、この手の発想はポンポンと頭に浮かぶようだ

建田さんの商才に憧れている浅田さんが思わず声を上げた

「親分、すごいっすよ!なんでそう、閃いちゃうんですか?」

すると、北原さんが言った

「浅田!これ、兄貴の才能なんだよ。お前、よく勉強しとけな」

「はい!…俺、是非、親分に付きっきりで…。アキラ、親分のレクチャー通りやってりゃ、話進むかもよ、がんばれな!」

浅田さんがオレにエールを送ってくれてる…

「よし、いいか!行かず後家はアキラが担当だ。年明けからアキラがソレ、優先できるように、間宮、余分な用はお前やれ!」

間宮さんは渋々という表情で、頷いてる

またあの人の気分、害しちゃっただろうな

どうもあの人とは相性悪いや


...


こうして、オレは泉さんの交渉担当になった

組の事業にタッチすることに反対だったタカさんも、この展開には苦笑いだった

「無理はするなよ、アキラ。あんまりな」って言ってくれた

結局、この夜は深夜まで盛り上がり、マッドハウスで年を越した