その10
アキラ



「…タカさん、私はこの端っこ座るから。そこの”疫病神”のそばだと、またろくなこと起きかねないわ」

「(苦笑)で…、何にする?」

「えーと、今日はモスコーお願いしますよ~」

「オッケー」

...


「…はい、モスコー、お待ちどうさん…」

「…」

...


「あの…、タカさん、そのモスコー、置く場所間違っちゃってますよ~」

「はは…、間違っておらんけん、全然ね。…ここのビップ席へどうぞ、赤子ちゃん…」

「タカさん!!」

タカさんはオレの右隣をビップ席だって…

参ったな…


...


赤子さんはしばらく長い髪の毛をいじりながら、ため息ついたり、貧乏ゆすりしたりしてた

眉間にしわ寄せながら…

一見してイラついてるでしょ、これって…

恐っ…

...


それをタカさん、タバコ咥えて洗い物しながら、下向いてクスクス笑ってるって…

「あのう、タカさん、オレはそろそろ…」

「赤子ちゃん、アキラが折り入って話があるそうだから。こっち来よってよ」

ああ…、タカさん、オレの言葉さえぎって、なんか悪乗り?してるよ…


...


「しょーがないなー!」

黒い革ジャンの赤子さん、すっくと立ちあがると、かっかとオレの右隣に歩いてきたわ

そして、オレとはメチャクチャ相性の悪い女ロッカーは、”ビップ席”に腰を下ろした…

...


「それで…?貧乏神の奴隷さん、何なのよ、私に用って?」

「はあ…。ええと…、例の衣装のクリーニング代、請求書まだいただいてないんで、いただきたいと思いまして」

わー、タカさん、ついに口からタバコ落として大笑いだ

...


「…それだけなの?私に聞きたいことって」

「今のところは…」

「ギャハハハ…」

タカさんは一気に声を出して爆笑だ…

「…アレ、知り合いのクリーニング店でタダでやってもらったんで。いいわ、請求ゼロで」

「あの…、それって本当ですかね?」

「本当なわけないでしょ…。アンタねえ~~、フツー、こんなおいしいカクテル飲んでたら頭もっと柔らかくなるわよ。やっぱり、救いようないわね」

「じゃあ、請求してくださいよ、ちゃんと!払いますから、ちゃんと!」

「何ムキになってんのよ。とにかく今回はいいわ。…せっかくアンタの”保釈金”、タカさんがクソチンピラどもをつっぱねて色つけてんのに、この私が足引っ張れないでしょ!」

「赤子さん…、そういうことでしたか。では、今回はそれで、すいません」

オレは右向いて頭を下げたよ

その有難い心使い、単純に嬉しかったし

...


「ふう~、アンタ、見てると肩こるって。そんなに早く折れないでよ」

「ハハハ…、赤子ちゃん。このアキラ、ロックわかっとるよ。まあ、キミももう気づいてることやろうけどね」

「…」

...


オレが間宮さんたちの企みでローラーズのステージに上がらされ、赤子さんが咄嗟のアドリブによって”この彼、ローラーズ見習いなんで~”発言を観客に宣言するのは、この日から約1か月後のことになる…