「…………じゃあ」


 観念した鳩井が、手を広げる。


「い……行き、ます……」

「……う、うぃ」



 そして、ぎこちない手が私の背中に伸びた。



 ……ぎゅ。




「……っ」




 鳩井の匂いに、体温に包まれて、大好きが溢れる。

 嬉しくて、恥ずかしくて、幸せすぎて…また泣けてきてしまう。




 ……あ




「……フフッ」

 私は鳩井のシャツをキュッと掴んで思わず笑いをこぼした。

「……?」

「鳩井の心臓ドコドコ言ってる」

「……そりゃ言うよ」



 そうしてようやく実感がわいてくる。

 私たちはもう、キスフレじゃない。




「……鳩井、彼氏……?」


「……うん」


「私、彼女」


「うん」


 マジかー…


「私、明日死ぬのかな…?」


「それは困る」


「……寂しいから?」


「うん」


 鳩井の『うん』が可愛すぎて、たぶんいま寿命10年ぐらい縮んだ。



 あー、もー、なにこれ。

 幸せすぎ。



「夢じゃん……」

「ふ」



 あ、笑った


 顔が見たくなって見上げると、


「……!」


 鳩井は、いつもの片側の口角だけあげる笑顔じゃなく



「……夢かもね」



 両側の口角が上がった、力の抜けた優しい笑顔だった。