「分かりました、努力します……」
思いとは裏腹に抑揚も無く、聞き取れもしない応えを吐き出していた。
すると、彼は満足したかのように笑みを浮かべ、此方の肩を軽く叩きながら追い討ちを掛けて来る。
「無駄にならない事を期待しております」
人を怒らせる天才が此処に居たのか、と思う程に彼の口振りは癪に障って苛立ちを募らせて行く。
若い頃ならば手出しも厭わないが、勢いに任せた所で何も生まれない事は判っている。
煙草は既に長い灰と化していた。
二本目を口にして火を点け、溜息と共に薄白い霞が燻る。
最早、腹を括るしか無くても何処かで抗う。
その理由は、若さと存在を武器に仕事を選べて、欲しい物さえ支障も無く手に入り、好き勝手に自由奔放に進めるのが妬ましいだけだった。
『明日の朝十時に集合、まるなか動物園前』
簡潔すぎる文面が来たのは、依頼されてから一週間後。
前日に相応の装いを用意したが、結局は着慣れた繋ぎ服で出掛けた。
一番楽で使い勝手も良く、ポケットが多くて収納に困らない。
胸を触れば煙草とジッポ、左腿に携帯で右はキーケース、尻には中身の頼りない財布。
車に乗り込んで一通り確認しながら手を止め、幾ら入ってるか、と銀行の残高を弾いていた。



