猫と髭と夏の雨と


園内では先を行く彼女の背後を着いて回り、赴くままに会話も交わさず、足を進めて行く。
未だに継続中の様子から、予想をすれば友人の話を耳にした事が伺えた。

ここが最初で最後の日。

互いに何も持たない私的な時間。
それは、恋人同士では無く、仲間としての餞別。

遠くへ旅立つ人に礼を兼ねて思い出作りをしている。
溢れ返る景色を眺めて、静かに胸の内で別れを告げた。

時折に彼女は振り返ると、此方を見ながら柔らかく微笑む。

いつも呼び方は"髭"だった。

名前を覚えているのか、知らない素振りなのかも判らない。

そして、何故、自分を選んだのか、と疑問を取り出す。

おそらく、永遠に解明など出来ない。
触れたところで、上手く避けられてしまう。

邪な気持ちを浮べると、優しげな声が流れてくる。

「もう、帰ろう……。雨、降りそうだから」

ただ、頷いて前の背中を追っていた。

園内から出るころに雨が降り出し、車に乗り込んだ時には荒々しさを増し、ワイパーを動かしても見えないほど、フロントガラスを濁らせた。
急ぐこともないか、と待ちながら煙草に手を掛け、口にしたと同時に火を点ける。

「ねぇ、煙草消して……」

彼女は窓側に身を寄せて呟き、背中を向けたまま、深い息を吐いた。