猫と髭と夏の雨と


出発をする二週間後の頃には、彼女の写真集が出る、と以前に報酬の件で木崎と話した時に聞いたが、流れに合わせて本人の様子を目論むも、巧みな話術で先手を打たれる。

「咲山も良い作品が出来たと喜んでおり、共に仕事が出来たことを感謝致しております、誠に有難う御座いました。また御縁が有りましたら、宜しく御願い致します」

丁寧な口調に一時審査で落とされ、就職難に嘆いた学生時代を思い出していた。
有りもしないことを一部に期待を含ませ、体の良い断り文句に苛立ちを抱える。

その一方で理解していた、これで完全に仕事は終わった、と。

気分転換に飯でも食いに行くか、と部屋を抜け出すと、誰かが階段を上がる音が聞こえる。

思わず南穂が来たのか、と目を向けた瞬間だった。

黒い猫耳の先が見え、踊り場で足を止め、飴を口にした彼女が、此方を眺める。

「おはよう、お髭さん」

「なんで、お前……」

余りにも突然で狼狽えたまま、言葉に詰まって呼吸を繰り返した。

「連絡しようと思ったけど、携帯が壊れて」

「他に方法が有るだろ、木崎に借りるとか」

投げ遣りに装うも、本音では嬉しさが込み上げる。

「ねぇ、デート行こうよ。動物園」

けれど、彼女は相変わらず、此方を置き去りにして、無邪気な顔で居るのが憎らしい。

「そこで待ってろ。車の鍵、取ってくる」

「分かってる。早くして」

興味の無い態度を見ても、可愛いとすら感じていた。