その日は彼女の事が気がかりで、寝つけずに過ごした。
思い出せば酷く疲れた声で、あの時に気付いて居たなら、と後悔しても連絡は取れない。
彼女は何かを伝えようとしてたのか、それとも、本当に声が聞きたかっただけか……。
日を追うごとに増える疑問を、不意に取り出して自ら陥るのか、全く気づいて無かった。
一週間を残して選別をした写真も纏まり、フィルムと共にケースに仕舞いながら息を吐く。
海外へ出る準備も中途半端にしたまま、手を付けられずに茫然として居る。
カメラに着けたキーホルダーが風に揺れていた。
唐突に始めた仕事が、前触れもなく終わる気配がして抗う。
日比谷の所へ行こうか、いや、余りにも不自然で逆に問い詰められる。
木崎に写真の件と合わせて聞いて見るか、と思い付いたところで、急に馬鹿らしくなった。
世間から後ろ指を指される年頃で、若さに振り回されて何を考えてるのか、と自分でも呆れる。
『またね、お髭さん』
ふと、彼女の声が脳裏に通り過ぎてゆく。
何故、思い出すだけで胸が痛むのか、本当は気付いている。
けれど、自問自答をすれば、そこで躊躇う。
単なる一過性で、会えないことへの感傷に浸ってるだけかもしれない。
それでも、胸の痛みは止まらず、彼女に会いたい、と叶わぬ願いが込み上げていた。
今年の夏は不安定な気候から体調面を崩し易いので注意を、などと近所の老父が手にしたラジオから流れるのを聞き、訝しげに見上げると、空に灰色の雲が覆い始める。
海外に行くから、と大型の物は業者に出し、必要な物だけ纏めると、簡素な部屋が仕上がった。



