子供騙しの玩具を覗き込むと、一瞬にして光の粒が溢れて廻る。
形や色を変えながら、瞬く間に花が咲いて輝く。
別の彩りを魅せる中で、初めての出会いが蘇る。
覗く度に彼女の表情が重なり、煌めき続けた。
あの時に見た空模様、雨の匂いや水音に紛れた景色。
優しく凪いだ風が髪の香りを運んで来た。
柔らかな午後の雰囲気を割くように携帯が鳴り、ポケットを探って表示も確認しないまま、玩具を片手にした状態で応える。
「はい……」
「こんにちは、お髭さんは元気?」
その声に色が滲んで映っていた。
いつもの挨拶も、憎らしい呼び方でさえも、心地良さを感じる。
「元気だよ、どこ行けばいい?」
万華鏡を置いて耳を澄ませると、向こう側で静かに呼吸を繰り返し、息を飲む音が聞こえた。
「今日はいい」
「何かあったのか?」
そこで、息を忘れたように呼吸を止め、思い出したように短く吸い、ゆっくりと静かに吐き出す。
「ないよ、何も」
声の様子からは見当も付かないが、何とも言えない空気が漂う。
とても嫌な予感がするのは気のせいだろうか……。
「じゃぁ、なに?」
「本当に何もないよ。ただ、声が聞きたくなっただけ」
優しげな口調に乗せられた意味が、掛ける言葉を詰まらせた。
「ごめん、気にしないで。またね、お髭さん」



