猫と髭と夏の雨と


今日の報せは外国行きの話が本命か、と三本目の煙草を取り出すと、彼が軽い様子で詳細を語り出す。
海外を中心に活動する有名カメラマンからアシスタントとして直々の依頼をされ、飛べば直ぐに有名女優を密着した撮影に付き添う。しかも無期限だ、と加えた。

降って沸いた話の内容的には当たり障りが無くても、どうして自分なのか、と咄嗟に問い掛ける。
けれど、彼は直ぐに鼻で扱い、これを機会に経験積んで来いよ、と笑いながら、お前は結婚もしてなくて丁度良い、などと投げ捨てるように簡単な理由を答えた。

彼の話や態度はともかく、理由の後者は否定に時間を要する。
南穂は仕事を辞めると言ったが、性格上から考えると、海外へ着いて来るとは思えない。

仕事への理解も示さない相手を、自分が説得出来るのか……?

それから一週間後。

漸く南穂が自宅へ押し掛けるように来て、部屋に入るなり、シャワー借りるわ、と声を掛けながら、慌しげに浴室へと向かった。
何気なく近くを通り過ぎた一瞬で、微かに燻った匂いが鼻を抜け、会議や接待とは別の違和感が尾を引く。

まるで、煙に巻かれたような状況に、南穂は浴室から戻ると、辺りを見回して一息吐き、胸を撫で下ろしながら、デスクの前に置かれたソファーへ腰掛けた。

窓辺の隅で煙草を手にしたまま、南穂の様子を眺めて、どう切り出すべきか躊躇う。

「ねぇ、まだあの女撮ってるの?」

口火を切るのは、いつも南穂からだった。

「仕事だって言っただろ」

「そんなのどうでも良いわ、私が嫌な事はしないで。何度言えば分かるの?」