猫と髭と夏の雨と


止まない雨脚で小道の脇に出来た細い川が、滝のようにも見える上に落ち葉を乗せ、排水溝へと向かっていく。
夢中になりすぎて情けない状態にも関わらず、彼女の行動だけを指摘した。

「お前さ、人の事ばかり気遣ってるけど、疲れないの?」

「じゃぁ、疲れたから肩貸して」

此方との距離も気にせず、彼女は隣に寄り添い、小さな息を吐く。

「汗くせぇぞ」

「加齢臭だ」

ふとした物を冗談に変えると、直ぐに仕返して笑い出す。

「うっせ、ばーか」

思わぬ態度に肩で軽く押し、当てた辺りが柔らかさに触れ、膨らんだ髪の香りが鼻を擽る。

綺麗な放物線が激しい雨に紛れ込み、目先の雲行きが一面を埋めつくし、錫色(すずいろ)の切れ間から稲光を走らせていた。
今にも落ちそうな空を見上げた途端に、大きな音が身体を揺さぶる。

「ねぇ」

「なに?」

「結婚、するんだね」

近くで閃光が瞬き、地面を強く叩くと、水溜りが微かに震えた。
隣から聞こえた声が波紋のように広がり、その視線が左手の薬指に留まる。

既に決めたはずの答えを、何故かポケットに忍ばせて誤魔化す。

「するよ、まだ何もしてねぇけど」