猫と髭と夏の雨と


南穂は大きな溜息を吐き、箸を置きながら応える。

「考えて置くわ」

予想外の反応に肩透かしを食らわされていた。

その後は施設で相手優先の行為に委ねたが、身体は晴れても心が次第に曇り始める。

倦怠期なのか、と浮かべるもベッドの上では思考さえ飛ぶ。

このまま朝を迎えれば、勝手に脳裏が廻り出す。

午前の妙な気遣いも、今有る疲労や状況の全てを忘れ、底の方へと赴いていた。

不意に昨夜までの嫌悪感が湧き上がり、傍らで鳴り響く音を手探りして耳に当てる。

「はい……、もしもし……」

頼りない脳内は眠りを求め、瞬きも出来ない程に瞼が重い。

「おはよう、お髭さん」

優しげな声に開き掛けても、何一つ把握が出来ないまま。

「ごめん、起こしたね、また掛け直す」

「待って……」

寝惚けた状態にも構わず、心地良さだけを引き止めていた。

「またね、お髭さん」

「待って……、切らないで……」

頼りない手で煙草を口にして火を点け、静かに吐きながら取り戻していく。