猫と髭と夏の雨と


色々と質問が有るのは此方も同じで、"髭"から"髭爺"に繰り上げられても違和感さえ無く、いつの間にか相手のペースに巻き込まれる。

ただ、淡々とした質疑応答で、機嫌を損ねて居ないかなど判らない。
けれど、今の所は順調に進んでいる様子も伺える。

その中でデジカメを構えて咲山璃乃を見ても閃かず、物体化とした機械を手に背後を追って歩き、金だけ貰ったまま……。

今日の、と言い掛けたところで被せ気味に、彼女は?と聞かれて黙りながら息を飲み込む。

この場合は何が正解なのか、答えなど二つに一つしかないのに戸惑う。

ふと気付けば、質問も忘れたように土産屋で商品を物色し、戻して見たりを繰り返している。

夢中な様子に、誤魔化せば良いか、と目論む。
しかし、一つのキーホールダーを眺めたまま、いるの?と確認してきた。

「いるよ」

「ふーん」

興味の無い返事で店員を探し出し、変わらない態度を前にして自分を嘲笑う。
ただの世間話に仕事を重ねて深読みしすぎた。

いつまで妙な気を遣い続けるのか、先すら見えない状況に深い溜息が零れる。

すると見計らったように、そろそろ帰ろうか、と寂しげに言い出し、この後に仕事も有るから、と軽く笑みを浮かべた。

明らかに詰まらない顔をした此方に気遣い、尤もな理由を加えて微笑みまで繕う。

やはり、咲山璃乃の方が大人で、所詮は本職になど適う訳がない、と実感していた。